夫(太巻きさん)がこの問題に直面したのは、渡米直後ではありません。アメリカで暮らし始めて、すでに5年以上が経ってからでした。
夫が血圧やいびきについて一度診てもらおうと、かかりつけ医=PCPを探し始めたところ、見つかるまでに1ヶ月以上かかりました。
保険には入っていました。英語で電話もできます。それでも、保険会社のサイトに載っているクリニックへ何件電話しても、「新患の予約は半年後です」「うちは特定の大学の関係者専用です」と断られました。
そこで初めて知ったのが、アメリカの医療には、日本とは違う「受診の順番」があるということでした。
わが家のように必要になってから知ると、受診したいときにすぐ動けないことがあります。
この記事では、これから渡米する方や、アメリカに住んでいるけれどまだPCPを決めていない方に向けて、わが家の実体験をもとに医療保険の使い方を整理します。具体的には、次のことを扱います。
- 自分の保険がHMOかPPOかの見分け方と、その違い
- PCP(かかりつけ医)とは何か、なぜ最初に必要なのか
- PCPの具体的な探し方と、電話でよくある断られ方
- 専門医にかかるときのReferral(紹介状)の仕組み
- 医療・歯科・視力の違い、保険料、自己負担上限など、渡米前に確認しておきたいこと
読み終えたときに「では自分は次に何をすればいいか」がわかる状態を目指しています。
保険のルールは、州・雇用主・保険会社・年度・プランによって大きく異なります。この記事は実体験をもとにした一般的な整理です。最終的な確認は、ご自身の保険証、保険会社のオンラインポータル、Summary of Benefits and Coverage、所属先のBenefits Officeでお願いします。
PCP(かかりつけ医)とは何か
PCP(Primary Care Physician)は、日本でいう「かかりつけ医」にあたる存在です。風邪や発熱などの一般的な体調不良、生活習慣病の管理、健康診断など、まず最初に相談する窓口になります。
多くの保険プランでは、このPCPが医療の入口として設計されています。専門医(耳鼻科、皮膚科、整形外科など)にかかりたい場合も、まずPCPに相談し、そこから紹介してもらう、という流れになることが少なくありません。
日本の「いびきが気になるから耳鼻科へ」「肌荒れが続くから皮膚科へ」という動き方が、そのままは通用しない、ということです。
体調を崩してから探すと、間に合わないことがある
PCP探しで見落とされがちなのが、登録そのものに時間がかかるという点です。
保険会社のサイトで「In-network(保険が使える病院)」と表示されていても、電話をすると次のように断られることがあります。
- 「新患(New Patient)の受付は半年後です」
- 「うちは特定の大学の関係者専用です」
- 「今年度は新患を受け付けていません」
太巻きさんの場合も、これを繰り返して1ヶ月以上かかりました。都市部では特に、新患を受け入れているPCPを見つけること自体が簡単ではありません。
よくあるつまずき|PCPが未登録のまま体調を崩す
発熱や腹痛など、すぐに診てもらいたい症状が出てから電話をかけても、新患予約は数週間〜数ヶ月先になることがあります。急ぐ場合はUrgent CareやER(救急)という選択肢もありますが、費用やIn-networkかどうかの確認が別途必要になります。「今日みてもらえますか」と気軽に相談できる窓口がない状態は、想像以上に不便です。
これは渡米直後の人だけの話ではありません。わが家のように、5年以上暮らしていても、必要になってから探し始めれば同じことが起こります。だからこそ、元気なうちに登録を済ませておくことが、いちばん現実的な備えになります。
このPCP探しの顛末は、Podcast「Lab & Life」Ep15で、太巻きさん本人からも話してもらっています。
まず確認:自分の保険はHMOか、PPOか
アメリカの医療保険には、大きく分けてHMOとPPOという2つのタイプがあります。どちらに加入しているかで、病院へのかかり方がまったく変わります。保険証やプラン名に記載されていることが多いので、最初に確認してください。
HMO(Health Maintenance Organization)
- PCPを登録する仕組みになっていることが多い
- 専門医にかかるには、プランによってPCPの紹介状(Referral)が必要(夫が加入していたHMOでは必須でした)
- 保険会社が認定したネットワーク(In-network)内の病院を使うことが前提
- 保険料は比較的抑えられていることが多い
PPO(Preferred Provider Organization)
- PCPを通さず、専門医に直接かかれることが多い
- ネットワーク外の病院も、自己負担は増えるが受診できる場合がある
- 保険料は高めになりやすい
よくあるつまずき|HMOで紹介状なしに専門医を受診する
HMOで紹介状を取らずに専門医を受診すると、保険が適用されず、想定外の請求になることがあります。「いびきが気になるので耳鼻科へ」という日本と同じ動き方が、そのまま高額な自己負担につながることもあります。
確認すること:自分がHMO・PPOのどちらに加入しているかを保険証で確認する。HMOなら、PCPの登録が最優先です。
PCPの具体的な探し方

実際の手順は次のとおりです。
- 保険証、または保険会社のオンラインポータルにログインする
- 「Find a Doctor」「Find In-network Provider」などのメニューから、住所周辺のPCPを検索する
- 気になる医師のクリニックに直接電話する
- 「新患(New Patient)として登録したい」と伝える
- 予約が取れたら、保険証と身分証を持って受診する
電話する前に知っておきたい落とし穴
- 「新患は受け付けていない」と断られることが非常に多い
- In-networkと表示されていても、「うちは特定の施設関係者専用」と言われることがある
- 都市部は特に混んでおり、予約が半年〜1年先になることもある
よくあるつまずき|「In-networkに出ているから大丈夫」と思ってしまう
ウェブサイト上でIn-networkと表示されていても、電話をすると受け入れてもらえないことは珍しくありません。夫も最初に目をつけた病院でこれに当たり、ゼロから探し直しになりました。掲載情報が最新とは限らない、という前提で動くほうが安全です。
やること:In-network内のPCPを3〜5件リストアップし、順番に電話する。1件断られても、次へ。断られるのが普通、という心構えでいるほうが疲れません。
専門医にかかるとき:Referral(紹介状)の流れ

PCPが決まったあと、実際にどう医療につながっていくのか。太巻きさんが高血圧の相談から鼻の手術に至るまでの流れを、実例として紹介します(HMOの場合の一例です)。
STEP 1:PCPを受診する
高血圧が気になっていたためPCPを受診。検査と血圧管理と並行して、「睡眠中に呼吸が止まる感覚がある」という別の症状も相談しました。ここでPCPが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があると判断。
STEP 2:紹介状をもらい、睡眠専門医(スリープドクター)へ
PCPから紹介状をもらい、睡眠専門医を受診。検査の結果、SASと正式に診断されました。
STEP 3:再びPCPへ戻り、紹介状をもらって耳鼻科(ENT)へ
SASの原因として、鼻の構造(鼻中隔湾曲症)が関係していることが判明。今度はPCPが耳鼻科への紹介状を書きました。
STEP 4:耳鼻科で診察を受け、手術が決まる
耳鼻科での診察を経て、鼻の手術が決定しました。
ポイントは、専門科に移るたびに、そのつどPCPの紹介状が必要だったことです。「また同じ説明をするのか」と感じるかもしれませんが、これがHMOの一般的な仕組みです。
よくあるつまずき|紹介状が「出ているつもり」で実は未発行だった
PCPが口頭で「紹介状を出しておきます」と言っても、実際には保険会社にReferralが届いていなかった、ということが起こり得ます。受診後に「Referralがなかったので保険が使えません」となる前に、自分で保険会社のポータルを開いてReferralの発行状況を確認する習慣をつけておくと安心です。
覚えておくこと:専門医の受診前に、①Referralが発行済みか、②その専門医がIn-networkか、の2点を自分で確認する。
例外:産婦人科(OB/GYN)は直接予約できる場合がある
HMOでも、妊娠・出産に関してはPCPを通さずOB/GYNに直接予約できるプランがあります。わが家が加入していたプランもそうでした。
わたし(シロックマ)がアメリカで妊娠したときも、PCPを経由せず、ペンシルベニア大学のOB/GYNに直接電話して初診を予約しています。
ただし、これもプランによって扱いが異なります。ご自身のプランで確認してください。


あわせて確認したい、日本との3つの違い
PCP以外にも、日本の感覚のままだと戸惑いやすい点があります。
① 医療・歯科・視力は「別々の保険」であることが多い

日本では健康保険で歯科もある程度カバーされますが、アメリカではMedical(医療)・Dental(歯科)・Vision(視力)が分かれていることが多く、それぞれ確認が必要です。医療保険に含まれるプランもあれば、別途加入が必要なケースもあります。
- Medical:病院・入院・手術など
- Dental:歯の検診・クリーニング・治療
- Vision:眼科受診・眼鏡・コンタクト
眼鏡を作る場合も、「eye doctor(optometrist)を受診 → 視力検査・処方箋 → 購入」という流れになります。日本の眼鏡店のように、その場で完結するとは限りません。
よくあるつまずき|「歯医者くらい行けるだろう」と思ってしまう
歯科保険に加入していない、あるいはOut-of-network(保険が使えない)の歯科を受診すると、思わぬ高額の自己負担が発生することがあります。
渡米前にやること:歯科・視力プランの有無、年に何回の検診がカバーされるか、In-networkの歯科はどこかを確認しておく。日本で眼鏡やコンタクトを新調しておくのも現実的です。
② 家族が増えると、保険料が大きく変わる
大学の保険は、研究者本人の保険料が抑えられていることが多い一方、家族を追加すると保険料が大きく上がります。夫の場合も、家族を含めると単身時の数倍になっています。
渡米前にやること:所属先のポータルで保険プランをシミュレートし、家族全員分の保険料の合計を出しておく。
③ Out-of-Pocket Maximum(自己負担の年間上限)を把握しておく
アメリカの保険には、Out-of-Pocket Maximumという「自己負担の年間上限額」の仕組みがあります。保険でカバーされる医療サービス(covered services)について、この上限に達したあとは保険会社が全額を負担します。
ただし、保険料そのもの、Out-of-networkの医療費、保険対象外の治療などは、この上限に含まれません。大学の保険では上限が比較的抑えられている場合もありますが、金額はプランによって異なります。
確認すること:自分のプランのOut-of-Pocket Maximumの金額を、保険証または保険会社のサイトで確認しておく。
渡米前・直後のチェックリスト
| 📋 渡米前にやること |
| ☐ 加入する保険プランを確認する(HMO・PPO・どちらか) |
| ☐ 家族全員分の保険料の合計を大学ポータルでシミュレートする |
| ☐ 医療・歯科・視力が別プランになっているか確認する |
| ☐ デンタル・ビジョンプランで「年何回の検診がカバーされるか」を確認する |
| ☐ Out-of-Pocket Maximum(自己負担の年間上限額)を確認する |
| ☐ 日本で眼鏡・コンタクトを新調しておく(アメリカは手間がかかるため) |
| 📋 渡米直後(最初の1週間)にやること |
| ☐ 保険証(Insurance Card)の受け取りを確認する |
| ☐ 保険会社のオンラインポータルにアカウントを作成する |
| ☐ In-networkのPCPを3〜5件リストアップする |
| ☐ PCPに電話して「New Patientとして登録したい」と伝える |
| ☐ 断られたら次の候補へ。諦めずに複数件あたる |
| ☐ PCPが決まったら、初回予約を入れる(急いでいなくてもOK) |
| 📋 専門医にかかる前に毎回確認すること |
| ☐ PCPにReferral(紹介状)を依頼したか |
| ☐ 保険会社のポータルでReferralが発行済みになっているかを確認した |
| ☐ 受診する専門医がIn-networkであることを確認した |
最後に:まず、この2つから
仕組みそのものは複雑ですが、事前に把握していればそれほど怖いものではありません。困るのは、知らないまま体調を崩したときです。
この記事を読み終えたら、まずこの2つだけ試してみてください。
- 自分の保険プランを確認する(HMOか、PPOか)
- 保険会社のサイトで、In-networkのPCP候補を3件探してみる
電話をかけるのは、そのあとで大丈夫です。候補の名前と電話番号がメモに並んでいるだけで、いざというときの動きがまったく違ってきます。
※本記事は、実際に経験したアメリカの医療保険・PCP探しをもとにした一般的な情報です。保険のルールは、州・大学・雇用主・保険会社・年度・プランによって異なります。受診の際は、必ずご自身の保険証、保険会社のオンラインポータル、Summary of Benefits and Coverage、所属先のBenefits Officeで最新情報をご確認ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

